この記事でわかること
- ✅ 障がい者がIT転職を目指す際の「現実的な難しさと可能性」
- ✅ 未経験からIT転職するまでの5ステップの全体像
- ✅ 自分に合ったIT職種の選び方と、職種別の難易度
- ✅ 就労移行支援・転職エージェントの賢い使い方
読了時間の目安: 約12〜15分
はじめに
「IT転職って、障がいがあっても本当にできるんですか?」
この質問は、私が就労移行支援員として働く中で、月に何度も受けます。そのたびに思うのは、答えは「できる人もいるし、そうでない人もいる」という、少し複雑な事実です。
「誰でも簡単にできる」とは言いません。ただ、「障がいがあるからIT転職は無理」も、明らかに違う。
私自身、前職はバックエンドエンジニアで、適応障がいを経験してからこの仕事に就きました。エンジニアとして働いていたときのこと、障がいを抱えながら転職を模索したときのこと、どちらも肌感覚として知っています。
この記事では、「何から始めればいいかわからない」という方に向けて、IT転職までの道のりを5つのステップで具体的に説明します。
「今すぐできるアクション」を重視して書きましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
まず知っておきたい「障がい者IT転職」の現実
良い面:ITは障がい者と相性が良い側面がある
IT業界には、精神・発達障がいのある方が働きやすい条件が揃っている職場が増えています。
- リモートワーク対応が多い(通勤負荷を下げられる)
- 成果物が明確なことが多い(曖昧な評価より、納品・完成で判断される)
- マニュアル・ドキュメント文化がある(口頭指示より書き言葉でのやり取りが多い)
- ASD・ADHDの特性が活かせる職種がある(集中力・パターン認識・細部への注意力など)
実際に私の支援先でも、IT職種に就いてから「仕事のやり方が自分に合っている」と感じる方は少なくありません。
難しい面:現実も知っておく
一方で、甘くない部分もあります。
- スキル習得に時間がかかる(プログラミングは特に、数ヶ月単位の学習が必要)
- 採用枠は限られる(障がい者雇用のIT求人は増えているが、まだ競争は激しい)
- 定着までのフォローが必要(入社後の環境調整がうまくいかないと離職しやすい)
- 自分の体調管理と学習を両立する必要がある(これが最も大変という声が多い)
「IT転職は夢じゃない」と伝えたいですが、「簡単な道ではない」とも正直に言っておかなければなりません。
IT転職までのロードマップ全体像
まず全体の流れを把握してください。以下が、未経験から障がい者がIT転職するまでの5ステップです。
[STEP 1] 自分の特性・強みを整理する
↓(1〜2週間)
[STEP 2] 目指すIT職種を1つに絞る
↓(1〜2週間)
[STEP 3] スキルを身につける(就労移行 or 独学)
↓(3〜12ヶ月)
[STEP 4] 障がい者専門のIT転職エージェントを使う
↓(1〜2ヶ月)
[STEP 5] 就職活動・面接・定着まで
↓(1〜3ヶ月)
[IT企業に就職・定着]
全体で最短8ヶ月、平均的には1〜2年かかることが多いです。「焦らず、でも止まらず」が基本的な姿勢です。
では、ステップごとに詳しく見ていきます。
ステップ1: 自分の特性・強みを整理する
転職活動の前に、まず「自分がどんな人間か」を言語化することが重要です。
これを飛ばすと、職種選びも面接準備も全部ブレます。
やること
1. 自分の障がい特性を整理する
- 何が得意で、何が苦手か
- どんな環境だと調子が良くて、何がトリガーになるか
- 過去の職場で「ここは大丈夫だった」「ここがきつかった」というポイント
2. 診断書・支援記録を確認する
就労移行支援を利用している方は、支援員と一緒に「就労アセスメント」を確認してください。まだ利用していない方は、主治医や支援機関への相談が先になります。
3. 強みを棚卸しする
「障がいがある自分には強みがない」と思いがちですが、そんなことはありません。
- 「細かいことに気づく」(テストやデバッグ向き)
- 「一つのことに長時間集中できる」(コーディング向き)
- 「ルールや仕様通りに作業するのが得意」(データ入力・運用向き)
- 「ユーザー目線で考えられる」(UI/UXや企画向き)
これらは、IT職種において実際に評価される強みです。
具体的なアクション
- 紙に「得意なこと3つ・苦手なこと3つ」を書き出す
- 支援員や主治医に「自分に向いている仕事の傾向」を聞いてみる
- StrengthsFinderや16Personalities(無料版で十分)を試してみる

ステップ2: 目指すIT職種を1つに絞る
「IT転職」と一口に言っても、職種は多岐にわたります。全部やろうとすると、どれも中途半端になります。最初は1つに絞ることが大切です。
障がい者に比較的向いているIT職種と難易度
| 職種 | 難易度 | 特性との相性 | 未経験からの目安期間 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Webライター(IT系) | ★☆☆☆☆ | 文章が得意な方向き | 1〜2ヶ月 | 厳密にはIT職ではないが入口として有効 |
| データ入力・事務(IT系) | ★★☆☆☆ | ルーティン作業が得意な方 | 1〜3ヶ月 | 障がい者雇用枠の求人が多い |
| Webデザイナー | ★★★☆☆ | 視覚的・空間的思考が得意な方 | 3〜6ヶ月 | Figma・XDのポートフォリオが必要 |
| インフラ・サーバー運用 | ★★★☆☆ | 手順通り作業が得意・夜勤対応できる方 | 3〜6ヶ月 | リモート案件も増えている |
| Webテスター・QA | ★★★☆☆ | 細部への注意力が高い方・ASD傾向の方 | 3〜6ヶ月 | 比較的求人が安定している |
| Webマーケター | ★★★☆☆ | 数字・分析が得意な方 | 3〜6ヶ月 | SEO・広告運用など分野が広い |
| プログラマー(フロントエンド) | ★★★★☆ | 論理的思考が得意な方 | 6〜12ヶ月 | HTML/CSS/JavaScriptが基本 |
| プログラマー(バックエンド) | ★★★★★ | 抽象概念を扱える方 | 9〜18ヶ月 | 競争率が高く定着まで時間がかかる |
※難易度は「未経験から障がい者雇用枠での就職しやすさ」の観点で評価しています。技術的な難しさとは異なります。
職種選びのポイント
- 「やりたい」より「続けられる」を優先する
憧れだけでプログラマーを目指すと、体調不良と学習の重さで途中で断念するケースが多い。
- 最初の職種が「最終ゴール」でなくていい
データ入力からスタートして、働きながらスキルアップしてWebデザイナーになった方もいます。
- 自分の特性と職種の「作業内容」を照合する
求人票の「業務内容」の具体的な作業(何を、どのくらいの頻度で、誰と)を確認してください。
ステップ3: スキルを身につける(就労移行支援 or 独学)
職種が決まったら、スキル習得に入ります。大きく「就労移行支援を使う」か「独学」かの2択になります。
就労移行支援を使う場合
メリット
- 費用が原則無料(収入・資産に応じた自己負担あり)
- 体調管理・生活リズムの支援が受けられる
- 就職後の定着支援がある
- IT専門の就労移行支援事業所では実践的なカリキュラムがある
デメリット
- 通所が基本のため、体調が不安定な時期は通いにくい
- 利用期間は原則2年以内(延長可のケースもあり)
- 事業所によってITスキル指導の質に大きな差がある
選び方のポイント
- 「IT特化型」または「IT訓練コースがある」事業所を選ぶ
- 見学時に「IT職種の就職実績(直近1年)」を数字で聞く
- 支援員の雰囲気・対話スタイルが自分に合うか確認する
具体的なアクション
- 自治体の障害者就業・生活支援センターに相談する
- LITALICO仕事ナビ・Kaienなど検索サービスで近くのIT特化型事業所を探す
- 複数の事業所を見学して比較する(1〜2箇所で決めず、最低3箇所)
独学の場合
独学は費用を抑えられますが、自己管理が必要です。体調が安定していて、ある程度自分でペースを作れる方向けです。
おすすめの学習リソース(無料〜低コスト)
- ドットインストール(動画形式の入門講座): 無料コースあり
- Progate(HTML/CSS/Python入門): 月1,078円〜、視覚的でわかりやすい
- MENTA(メンターに質問できるサービス): 詰まったときの相談用に
- YouTube(Webデザイン、Linux基礎など): 無料で範囲が広い
独学の落とし穴
一人で進めていると「自分が正しい方向に進んでいるか」がわからなくなりがちです。月に1回でもいいので、就労移行支援の相談員や、ハローワークの専門支援員に進捗を話してみることをおすすめします。
ステップ4: 障がい者専門のIT転職エージェントを使う
スキルがある程度ついたら(またはついてきた段階で)、転職エージェントを活用します。
一般的な転職エージェントではなく、障がい者雇用専門のエージェントを使うことを強くおすすめします。
なぜ障がい者専門エージェントが必要か
- 障がいの開示・クローズをどうするか、一緒に考えてもらえる
- 配慮事項の伝え方を企業との間でサポートしてもらえる
- 「入社後に合理的配慮が取れる企業か」を事前に確認してもらえる
- 一般エージェントは「障がいがある求職者」への対応ノウハウが低いことが多い
主な障がい者専門IT転職エージェント
| エージェント | 特徴 |
|---|---|
| atGP(アットジーピー) | 大手。IT職種の求人も一定数あり |
| ランスタッド障害者雇用 | 外資系。スキルがある方向き |
| dodaチャレンジ | doda系列。求人数が多い |
| LITALICOワークス | 就労移行支援+エージェント機能を持つ |
| LITALICO仕事ナビ | 就労移行支援経由の紹介が主 |
※複数のエージェントを並行利用して、求人の量と質を比較することをおすすめします。ただし、2〜3社が管理の限界です。
エージェントに伝えるべきこと
- 障がいの種類・配慮事項(何があれば働けるか)
- 希望職種・習得スキル
- 働き方の希望(週何日・リモート可否・勤務時間帯)
- 過去の就労歴(うまくいった点・いかなかった点)
エージェントは転職を成立させることが仕事なので、自分の状況を正直に話した上で「この条件でも紹介できる求人はあるか」を確認するスタンスが重要です。

ステップ5: 就職活動・面接・定着まで
エージェントから求人紹介が始まったら、いよいよ就職活動です。
応募書類(履歴書・職務経歴書)
- 履歴書は、フォーマットにこだわらず「読みやすさ」を重視する
- 職務経歴書は、IT職種未経験の場合は「習得スキル・学習内容」を具体的に書く
– 例:「Progate HTML/CSS修了(2025年9月)」「ポートフォリオサイト1本制作」
- 障がいの開示は、基本的に障がい者雇用枠での応募では必須。配慮事項は「〇〇があれば働けます」と建設的に書く
面接
よく聞かれること
- 「障がいについて教えてください」→ 特性・配慮事項・対処法をセットで答える
- 「なぜIT職を目指したのですか」→ 動機と、自分の特性との接点を話す
- 「体調が悪くなったときはどうしますか」→ 具体的な対処策を話す(「上司に連絡して…」まで言えると良い)
面接で意識すること
- 「この会社で働けるか」を自分でも評価するつもりで臨む
- 合理的配慮の内容を確認する(「週に1回の面談」「繁忙期の残業免除」など)
- 曖昧な返答が多い企業は注意する
定着のために
入社してからが本番です。
- ジョブコーチ・定着支援を使う(就労移行支援を経由した場合、就職後6ヶ月は定着支援が受けられる)
- 困ったことは早めに相談する(我慢して爆発するより、小さい問題のうちに話す)
- 体調の波を記録する(自分の調子の傾向を把握しておくと、職場への説明がしやすい)
よくある質問(FAQ)
Q1. 障がいを「オープン」にして就職すべきか「クローズ」にすべきか?
A. 一概には言えませんが、精神・発達障がいがある方には「オープン就労(障がい者雇用枠)」をおすすめすることが多いです。
クローズで入社すると、配慮なしの環境に置かれ、体調悪化→離職というケースが少なくありません。オープンにすれば、配慮を受けながら長く続けられる可能性が上がります。
ただし、「軽度で配慮が少なくてよい方」「スキルがしっかりある方」「障がい者雇用枠の求人が少ない職種を目指している方」は、クローズでの一般枠応募を選ぶケースもあります。エージェントや支援員と相談して決めてください。
Q2. プログラミングが全くできなくてもIT転職できますか?
A. できます。ただし、プログラマー・エンジニア職は難しいです。
「プログラミングを使わない・または最小限のIT職種」として、Webテスター・QA、データ入力、ITサポート・ヘルプデスク、Webマーケターなどがあります。これらはある程度のPCスキル(Word・Excel・Googleスプレッドシートが使える程度)があれば応募できる求人もあります。
Q3. 就労移行支援の利用期間が残り少ない。今から間に合いますか?
A. 残り期間と現在のスキル・目指す職種によります。
残り6ヶ月以上あるなら、職種を絞ってエージェントへの登録を並行して進めれば間に合う可能性があります。
残り3ヶ月未満の場合は、就労継続支援A型・B型への移行、または雇用期間を短く区切って就職してから学習継続する方法も選択肢です。支援員に正直に現状を話して、一緒に計画を立て直してください。
まとめ
未経験から障がい者がIT転職するロードマップを5ステップでまとめました。
| ステップ | やること | 目安期間 |
|---|---|---|
| STEP 1 | 自分の特性・強みを整理する | 1〜2週間 |
| STEP 2 | 目指すIT職種を1つに絞る | 1〜2週間 |
| STEP 3 | スキルを身につける | 3〜12ヶ月 |
| STEP 4 | 障がい者専門エージェントを使う | 1〜2ヶ月 |
| STEP 5 | 就活・面接・定着 | 1〜3ヶ月 |
この道のりは、決して短くありません。体調が悪い日も、「自分には無理かも」と思う日も、必ずあります。
それでも、現場で多くの方を見てきた立場から言わせてもらうと、「焦らず、止まらず、ひとつずつ」が最終的に結果につながっています。
一人で抱え込まず、支援者やエージェントをうまく使いながら進んでください。
次のステップ
この記事が「IT転職に興味があるけれど、まだ漠然としている」段階の方に向けて書いたものであれば、次はより具体的な情報を読んでみてください。
- 障がい者でもITエンジニアになれる?現場支援員が正直に答えます
→ 「エンジニアになれるかどうか」をもう少し踏み込んで解説しています。 - 発達障がいとIT仕事の相性【向いてる職種・苦手な職種を解説】
→ ASD・ADHDの特性別に、IT職種との相性をまとめています。


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